2015年06月08日
チャック
「今日はちょっと風がよー通るね。」
6月にしては肌寒いような風が、すーっとすり抜けていく。
「あー、ほんまやなぁ。」
ソファーに座ってくつろいでいるまさひろさん。
「寒うない?上着、着といたほうがええんちゃう?」
まさひろさんは、近くにあった上着を手にとって、袖を通す。
けれど、前をとめようとチャックを手に取るが、手が思うように動かないのか、
チャック同士をなかなか合わせることができない。
「大丈夫?私がしようか?」
ついついそんな言葉をかけたくなる。
けれど、今日の私はグッと言葉を飲み込んだ。
1分ほど待っただろうか。
チャックがカチッとはまり、ジーッと上にあげていく小気味よい音。
まさひろさんから「ふぅ」という、ため息。
思わず「はぁ」、と息を吐く私。
「目もうすうなって、手も思うように動かんけん、いかんなぁ」
はにかみながら、ハハハ、と笑うまさひろさん。
ちょっと照れくさそうにされた表情に、いつもあくせくしていた私の心が、ほっとした。
手を出せば、簡単に済んでしまうこと。
手を出せば、本人と私の心の中に、決して得ることができなかったもの。
ふと、そんなことをイメージした。
小さい、大きい、一つ一つの出来事の大小ではなく、
こんな毎日が積み重なっていくことが、大切なのかもしれない。
今日の私には、そう、思えることができた。

6月にしては肌寒いような風が、すーっとすり抜けていく。
「あー、ほんまやなぁ。」
ソファーに座ってくつろいでいるまさひろさん。
「寒うない?上着、着といたほうがええんちゃう?」
まさひろさんは、近くにあった上着を手にとって、袖を通す。
けれど、前をとめようとチャックを手に取るが、手が思うように動かないのか、
チャック同士をなかなか合わせることができない。
「大丈夫?私がしようか?」
ついついそんな言葉をかけたくなる。
けれど、今日の私はグッと言葉を飲み込んだ。
1分ほど待っただろうか。
チャックがカチッとはまり、ジーッと上にあげていく小気味よい音。
まさひろさんから「ふぅ」という、ため息。
思わず「はぁ」、と息を吐く私。
「目もうすうなって、手も思うように動かんけん、いかんなぁ」
はにかみながら、ハハハ、と笑うまさひろさん。
ちょっと照れくさそうにされた表情に、いつもあくせくしていた私の心が、ほっとした。
手を出せば、簡単に済んでしまうこと。
手を出せば、本人と私の心の中に、決して得ることができなかったもの。
ふと、そんなことをイメージした。
小さい、大きい、一つ一つの出来事の大小ではなく、
こんな毎日が積み重なっていくことが、大切なのかもしれない。
今日の私には、そう、思えることができた。
